2022.02.15 Monthly21

PEACE DAY monthly 21 #4 開催レポート

毎月21日に開催している「PEACE DAY monthly21」。
4回目は「日本の平和貢献のあるべき姿を考える」をテーマにトークセッションを開催しました。

企画のメインとなるのは「積極的平和」概念の生みの親であり「平和学の父」と呼ばれるヨハン・ガルトゥング博士の講演映像です。2015年8月21日に開催された講演会「日本は今後どう世界の平和に貢献していくべきなのか?」の初一般公開となりました。

ゲストとしてお迎えしたのは、博士と親交が深く「ガルトゥング平和学入門」の共著者でもある奥本京子大阪女学院大学教授。博士の講演や理論を解説していただきました。

トークセッションの後半は、博士と直接お話させていただいたことのある、一般財団法人PEACE DAY代表理事の井上高志、理事の関根健次も加わり、奥本教授と共に「日本の積極的平和貢献のあるべき姿を考える~東アジアの平和を実現するために~」について語りました。

平和にも学問がある

おそらく「平和」という言葉を知らない人はいないでしょう。
しかし、その言葉の意味や、その言葉が示す状態について、深く追求したことがある人はどれだけいるでしょうか。

経済に経済学、経営に経営学があるように、平和学という学問分野があります。
平和とは、一人ひとりが思い浮かべる違う曖昧な概念ではなく、学問として追求されているのです。

学問ですからそう簡単には語り尽くせませんが、「構造的暴力」「消極的平和」「積極的平和」「トランセンド」などのキーワードがあります。

■構造的暴力
貧困・飢餓・差別・抑圧などの不公正な状況を生み出す社会構造によってもたらされる、行為主体が明確ではない暴力。
■消極的平和
戦争がない状態。
■積極的平和
戦争がなく、貧困・抑圧・差別など社会構造に起因する間接的な暴力(構造的暴力)もない状態。
■トランセンド
紛争を解決するための手法の一つ。当事者間の妥協点を探るのではなく、対話を通じて双方の目標・心情を理解し共感したうえで、対立や矛盾を非暴力的・創造的に超越し、両者が協力しあえる良好な関係へと転換させていく。

※いずれも「デジタル大辞泉」より

同意できなくても、理解しようとする意思

こうした平和学における重要人物が、ガルトゥング博士です。

国、地域、個人と、主語となるスケールが変われば平和へのアプローチは異なります。博士は講演で、さまざまなスケールや立場を行き来し、平和を妨げる課題について多角的な思考を矢継ぎ早に繰り広げます。ときにドキッとする発言も飛び出しますが「その意図を知りたい」とますますのめり込んでしまうようなとても興味深い講演です。

中国や韓国との領土問題・日米安保などの具体的な対立から、平和を目指すために必要な私たちのマインドセットまで、さまざまな気付きがあります。

講演の録画が終わったあと、奥本教授から博士のパーソナリティや考え方を補足いただきました。

まず、博士は原理主義者でなく、とてもバランスの取れた人であるということ。自分の立場からの「正義」から抜け出し、小さな声であっても、自分の正義から見たときには“敵”であっても、話を聞く。同意しなくてもいいから、とにかく相手を理解する。これを博士は「エンパシー(共感)」と表現しています。なぜこれが大切かと言えば、それぞれの正義があり、そこから抜け出さないからこそ、衝突が起きてしまうからです。

また博士は急進主義者でもありません。ジワジワと、現実的に必要な時間やコストをかけて平和に向かっていこうと説きます。

関根理事も思い出を振り返り「領土問題などの衝突があることがチャンスだ。それが相手との対話の糸口になる」との博士の言葉が強く印象に残っていると語りました。

アジアに広がる市民・経済の連帯

後半のトークセッションでは「東アジアの平和を実現するために」というテーマのもと、アジアにおけるコミュニティ・連携の可能性や現在地についても率直な意見がかわされました。

アジアにおいてEUのような連帯を作れるのだろうか。そんな関根理事からの問いに、奥本教授は「表面的な状況は悪化しているように感じるが、市民社会における連帯は進展しているのではないか」と状況を考察します。

さまざまなNGOや研究者、活動家のネットワークが無数にあり、それが増えていけば、政治も連帯の方向に動かざるを得ないのでないか、と。

井上代表理事もまた、株式会社LIFULL代表取締役という立場から状況を俯瞰し「経済活動においても、アジアとのつながりはとても盛んで、規模も大きい」と言います。

博士が最後に強調したのは、平和へのアプローチは、練習や実践が必要だということ。家族や学校、職場など身近にある課題を解決するところから始めるべきだと。机の上で考えているだけでなく、実践が大事。

市民や経済のレベルから、アジアの連帯を深める。ピースデーもどんどんアジアとのネットワーキングを増やしていこうという意思を確認し、今回のトークセッションは終わりました。

イベントの様子は、ガルトゥング博士の講演も含めたアーカイブを無料でご覧いただけます。どんな話が交わされたのか、ぜひご自身で聞いて、考えてみてください。
また、博士の講演映像も別途公開していますので、こちらも併せてぜひご覧ください。

▼PEACE DAYmonthly21#4 アーカイブ
https://youtu.be/xJU86Y_UAjQ

▼ヨハン・ガルトゥング博士講演映像
・日本語字幕版 (36分):https://youtu.be/csc-YyHs_Tc
・オリジナル版 (93分):https://youtu.be/zv7dISCEUcc