peace of words words of peace

心×社会システム×テクノロジーで、そもそも戦う必要がない状態にしたい

2023.10.30
井上高志

世界平和を目指しはじめた理由

32歳のときから「究極の目標は世界平和だ」と公言し始めました。背景はLIFULL社の社是が利他主義だから。利他主義を究極まで突き詰めていくと、世界平和になると思いました。僕の寿命が100歳か150歳かはわかりませんが、死ぬまで一つのビジョンに向かって突き進んでいく人生がいいと思いました。
では、実際に世界平和のためにどうしたらいいか? 世界を隈なく見て現状を知っているわけでもない僕は、平和のために何をしたらいいのか最初は何も分からなかった。

その3年後、ゾマホン(イドゥス・ルフィン)さんが当社のイメージキャラクターになってくれました。ゾマホンさんの祖国ベナン共和国に対する想いと行動をお聞きしてすっかり僕は彼を尊敬するようになり、世界の中でも最貧国のひとつと言われるベナンに連れていってくれと頼みました。自分の目でアフリカの貧困状態をきちんと見てみたかったのです。

実際にベナンに行って現地視察をしてきました。電車は通ってないし、電気も水道もないし、一日せいぜい一食しか食べられない。5歳の子どもが裸足で1時間歩いて、ようやく水源にたどり着いて、命をつなぐ水を汲んで帰ってくる。その水は決して衛生的ではないけれど、その水しかないから飲むわけです。一方で、自分は日本に帰国すれば自分も家族もすごく恵まれた環境に身を置いて、何の不自由もない状況にいる。

僕が経営者として培ってきた能力は、課題解決能力です。ベナンの実情と課題を見たときに、限界費用をゼロにして、水も食も住宅も医療も教育も、誰にでも潤沢に行き渡るような状態を作れば、戦争をなくすことにつながると考えたました。それまで脳内にあった世界平和と利他主義が、「こうすれば良いかもしれない」と腹落ちして、自分の考えを整理して実現へのシナリオを作ったんです。その後、現地を見に行って、学校を作って、井戸を掘って、アフリカ原産のシアバターやモリンガで産業を作っていく「実践」もゾマホンさんとスタートしました。

 

平和を妨げる本質的な課題の理解と、解決のための方向性

世界平和の話をするときは、個人レベルと国家レベルで分けて考えないといけません。例えば、中国人と日本人、韓国人と日本人を考えるときに、個人レベルでは仲の良い人たちがたくさんいるけれど、国家レベルになると歴史観の違いや外交上の駆け引きからいがみ合いが数百年と続く。そこをなぜ乗り越えられないのかと思ってしまいます。

アインシュタインとフロイトの往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか(アルバート・アインシュタイン、ジグムント・フロイト、訳:浅見昇吾、解説:養老孟司・斎藤環、講談社学術文庫)』を読んでいます。この本の中でフロイトは、人間には生への衝動エロスと死への衝動タナトスを持っていて、自死に向かうタナトスとエロスが衝突するのを解決するために、他者への破壊衝動が起きると言っています。フロイトの説では、人間は暴力性を持っているし、自分と異質なものを排除する性質がある。今は多文化や感受性が必要だというけれど、例えば、白人の子どもが大きな黒人の男性を見てびっくりするのは人間のDNAに刻まれた自然な反応かも知れません。そこからきちんと学び、感受性を高めて、多文化への理解を深めていく努力が大事だと思います。決して暴力に訴えることなく、すべては対話を通じて解決していくことを守り続けなければなりません。

私たち一般財団法人PEACE DAYのビジョン・ミッションに書いている言葉があります。

一般財団法人PEACE DAYHPより引用

平和学の父ヨハン・ガルトゥング博士によると、貧困・飢餓・抑圧・差別など社会構造に起因する間接的な暴力がある状態を「構造的暴力」といいます。たまたま戦争がない状態の「消極的平和(ネガティブピース)」ではなく、多くの人々の能動的な尽力の結果として構造的暴力をなくした状態「積極的平和(ポジティブピース)を築いていく事が大切です。「みんなが平和のために一致団結して声を上げ、行動したから、戦争がない状態を作れている」という意識を持つことがすごく重要だと思います。
国のために尽力するという意識よりも、身近な愛する人々(子供や家族など)を守りたいという想いこそが原動力になるのではないでしょうか。

 

世界平和への当事者意識

PEACE DAY財団は、毎年9月21日(国際平和デー)にイベントを開催しています。私たちの団体だけが10万人を超えるような大きなイベントを開催することを目指すのではなく、ネットワーク型で多様な市民・団体・企業が繋がるプラットフォームになりたいと考えています。プラットフォーム上で世界平和に対する想いを持つ人たちの活動が連携し、結果的に100万人を超えるようなひとつのムーブメントになっていき、例えば近所のカフェでユナイテッドピープルのドキュメンタリーを店主とお客さん10人くらいで観て、フェアトレードのコーヒを飲みながら平和について語るような時間も大切だと思うのです。

「世界平和」という四文字が出てくると、大上段に構えて話しづらくなりますよね?言葉の圧が強くて、簡単に話してはいけない感じになってしまう。でも「あなたにとっての平和は何ですか?」と聞くと、家族や友人のことや身近なことを願うことを話し始めてくれる人がたくさんいます。これが市民レベルの平和です。
一方で国家レベルの防衛や外交の話になると、ミサイルが飛んでこない国を維持し、守り続けることも大事ですから、市民も誰かに考えるのを任せるのではなくて、自分たちができる範囲で何かをしたり、メッセージを発信したり、平和や対話が大事だと声を出すことが大切です。

今はウクライナ侵攻があり、隣国中国の脅威が取り上げられる。防衛費をGDP比2%に増額する話が国民的な思考プロセスを経ずに肯定的に語られるのは危険な状態だと思います。このタイミングで、権力者が民主的なプロセスを経ずに増額を決定するよりも、国民に真を問うた方がいい。
私たち市民も闇雲に戦争反対と言うだけではなく、日本周辺を見渡せば安全保障上のリスクがあるから、今の防衛費では足りないのか、防衛能力をどの程度持つべきなのか、専守防衛とはどのような定義にすべきなのかといった議論をして、国民が納得したうえで意思決定することが重要だと思います。このことに国民はもっと声をあげないとなりません。

「人類の幸福・世界平和=心×社会システム×テクノロジー」

幸せや平和というのは個人のその時その時の主観的な感覚の集合体といえます。


そこで人はどんな状態が幸せなのか、公益財団法人Well-being for Planet Earthはウェルビーイング学への研究助成を通じて解き明かしています。つまり「心」を解き明かしていこうとしています。

社会システム

次に、人の心がより深く理解できるようになっても、社会システム・制度、イデオロギーが古臭い20世紀までのままで、行き過ぎた資本主義や社会主義的・権威主義的・独裁主義的だと、人々のWell-beingは社会に広げづらいままです。古い社会システムはバージョンアップしないといけないので、LivingAnywhere CommonsNasuconValleyから実験・実装しているところです。

NasuconValleyプロジェクトは東京ドーム170個分、約8平方キロの私有地に21世紀型の未来の街づくりをするというチャレンジであり、国内最大級のリビングラボと言えます。Well-beingな社会を創るために、Well-beingテックや、未来のインフラになるであろう無人走行やドローンタクシー、ドローン配送、自律分散型のエネルギー、循環型の水資源、超ローコストな住宅、遠隔医療、遠隔教育、などの実証実験と社会実装を目指して活動しています。

すでに大学や企業など50社ぐらいが参画しており、世界平和と人類の幸福に繋がる新しい未来型の街をまずこのエリアで創ってみて、後の政策に反映させて日本全体に水平展開したり、海外に技術を輸出したり、ということをやりたいと考えています。広大な私有地でゼロベースから新しい社会構造を作り、それに合わせて古い規制は改革をして新たなルールを策定していきます。

テクノロジー

人類史上いつも爆発的な進化の過程には技術革新がありました。農業革命、産業革命、情報革命、AI革命、どれもテクノロジーの劇的な進化によるものでした。テクノロジーを上手に活用して平和と幸福を実現させるスピードを加速させていきたい。その結果、限界費用ゼロ社会を実現して生活コストを今の10分の一まで減らすことができれば、人類は初めて時間とお金と場所の制約から解放されるることになります。これは同様に世界の貧困国の国民も潤沢な環境に恵まれることを意味します。

潤沢すぎる社会がテクノロジーの力で実現すれば「そもそも、なぜ私たちは争う必要があるんだ?」という状態になると考えています。水も食料もエネルギーも快適な住宅も満たされている人々で溢れている光景を実現させる、それが僕が目指している世界平和と人類の幸福への道筋です。

「人類の幸福・世界平和=心×社会システム×テクノロジー」この方程式を、多くの方々とのパートナーシップで実現したいと強く願っています。

 

<プロフィール>
株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上高志

1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME’S(現:LIFULL HOME’S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外併せて約30社のグループ会社、30以上の事業、世界63ヶ国にサービス展開している。個人としての究極の目標は「世界平和」と「人類の幸福」で、LIFULLの事業の他、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開。そのほか一般財団法人PEACE DAY 代表理事、公益財団法人Well-being for Planet Earthの評議員、一般社団法人新経済連盟 理事、、一般社団法人ナスコンバレー協議会 代表理事を務める。